【熱冷まし(カロナール)について】
“何度になったら、熱冷ましを使うのですか?”
“38.5度以上です。”
よくある会話ですが、本当に熱は冷ました方がよいのでしょうか?
発熱により、免疫機能が高まること、病原体が増えにくくなることなどのメリットがわかっています。つまり、風邪の熱は体を守るために出していると考えます。体温を何度に上げれば、うまくなおせるのかを体が判断し、その温度(セットポイント)まで、うまく熱が上がれば汗が出て、すっきり治ることが期待できます。体表面の熱が高くても、汗をかいていないかたもしばしば見られます。体の中の温度がセットポイントまで上がっていないためでしょう。このような、汗のない発熱の初期には、体の中を温めて発汗を促す、麻黄湯や葛根湯などを処方することもあります。
では、どんなときに解熱剤を使用するのでしょうか?発熱に伴う痛み(頭痛や身体痛、咽頭痛など)が強い時、長引いて寝られない時や水分の摂取ができないなど弱っている時には解熱剤を使用します。熱の始まりで、顔つきや眼力がしっかりし、呼吸の状態も良好で、水分の摂取などの可能な状態、つまり熱に負けていない状態では使用を見合わせて良いと説明しています。
【抗生物質について】
基本的に、風邪には抗生物質を処方しない方針です。
念のためにと抗生物質を希望される方がいらっしゃいますが、抗生物質は細菌感染症に用いる薬であり、ウイルス感染が原因である多くの風邪には効果がありません。
不要に抗生物質を使用すると、抗生物質の効きにくい耐性菌が増加します。耐性菌の増加は世界中で問題となっており、このまま不要な抗生物質の投与が続けば、2050年には耐性菌による死亡者が1000万人を超え、癌による死亡者より多くなり、死因の1位になることが予測されています。また子どもでは腸内細菌を乱し、その結果、アレルギー疾患や成人病などのリスクが上がることが心配されています。風邪に処方される、念のための抗生物質の服用については、少し、慎重になってもよいかと思います。
一方、発熱や咽頭痛の風邪症状で受診される溶連菌感染症(細菌感染症です)については、ペニシリン系の抗生物質を10日間服薬していただき、しっかり治し、合併症を予防することが大事となります。
使用を誤ると不利益を生じる抗生物質ですが、使用が必要となる感染症に対しては、今後も有効的に活用したいものです。
【せき止めについて】
風邪のせきは、体の防御反応の一つであり、気道にはいった異物(ウイルスなど)や痰を体外へ排泄する役割があります。
痰がからみ、出しにくく、こみ上げるようなせきに対しては、カルボシステインやアンブロキソールを処方します。漢方薬の麦門冬湯には、喉をうるおす効果もあり、比較的飲みやすい薬なので、症状が強いときには一緒に処方することがあります。
咳が続き、強いせき止めを希望される場合がありますが、コデイン類の使用には注意が必要です。呼吸を抑制する副作用があり、12才未満の小児では使用できないからです。
また蜂蜜には、せきを止める作用があると言われ、実際にせき止め成分も確認されています。ティスプーンで一杯程度を時々なめてみてください。ただし、小児に与える場合は1才の誕生日を過ぎてからです。(0才児にはボツリヌス症と言う病気のリスクがあり、与えてはいけません)
なおツロブテロールテープは、気管を広げて呼吸を楽にする、貼り薬です。気管支喘息などの呼吸困難を改善する薬であり、せき止めではありません。
せきで始まり、注意が必要な(風邪より悪い)病気としては、クループや細気管支炎、肺炎、百日咳、気道異物、心疾患などがあります。いつもの風邪より苦しそうだったり、様子が違う時は、迷わず相談しましょう。